挑みつづけた15年。
フレイターが開拓する未来の空輸。
- イノベーション
- フレイター
- 電子機器
挑みつづけた15年。
フレイターが開拓する未来の空輸。
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中国やアジア各国の経済発展と共に成長してきた航空輸送
2002年9月、ANA Cargoのフレイター(貨物専用機)が、中国・青島便へ就航した。現在は上海、香港、バンコクなどへも飛び、その他アジア各国にも日々多くの貨物を届けている。
当時中国では工場が急増し、スマートフォンを始めとする多くの電子機器類の生産が盛んになってきていた頃。需要は高まっていたものの供給が追いつかず、他社を含めてフレイターが就航していなかった中規模マーケットに照準を定め、言わば電子機器類のサプライチェーンの変化と共に成長してきたのがANA Cargoのフレイター事業とも言える。
大型機での輸送が一般的であったときに中型機で参入し、市場を開拓。常に航空輸送の需要を掴み、その業績と規模を拡大してきた。そして、大切な貨物を守り運ぶための体制は着実に整えられてきている。
就航から15年。中国、アジア各国の発展やマーケットの規模拡大とともに成長してきたANA Cargoのフレイター事業だが、具体的にはどのような背景があったのだろうか。また、今後どのように成長していくのだろうか。
大量生産大量輸送の時代に、中型機で中規模マーケットに参入
フレイターというのは貨物のみを搭載する専用輸送機のことで、ANA Cargoでは2002年9月8日に中国の青島へ、フレイターとしては初めて乗り入れた。その際選ばれたのは、ボーイング767型フレイターという中型機。約100トンの貨物を搭載できるボーイング747型フレイターの大型機が主流だった時代には 非常に珍しい機種選択であった。
中型機で中規模マーケットに参入したのには様々な理由がある。それは、この15年の中国・アジアにおける経済発展がヒントとなる。世界でスマートフォンなど多くの電子機器が普及してきた近年。それらの生産のほとんどは中国で行われている。また、自動車部材の生産も急速に伸びてきた。それらの輸送で重視されることは何だろうか。それはスピードと品質管理である。そこに対し、ANA Cargoはいち早く対応を行ってきたのだ。
フレイターを自分たちで持つことは、我々の夢だった。
株式会社ANA Cargo取締役 オペレーション部門担当の渡邉圭二は、新卒で入社以来、ほとんどの期間で貨物事業に携わってきた。入社当時を振り返りながら、フレイター事業への思いを語る。
「フレイターを自分たちで持つことは、貨物事業に携わってきた人々の夢だったんです」
2017年現在ANA Cargoでは12機のフレイターを所有しているが、そこに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかった。
航空輸送といえば、80〜90年代ごろは旅客機の客室部分の床下を使うのが主流。まず重視されるのは旅客便をどこへ飛ばすかということで、貨物ニーズを考えるのはその後となっていた。しかしながら当然、旅客と貨物のニーズは異なることも多い。
「貨物輸送の需要に合わせて自由にフレイターを飛ばせたら」と夢を描き続けてきた。
そして2002年9月、中国・青島便が就航した。中国へ日本からの工場進出が増加していたころだったが、まだ航空輸送は盛んとは言えなかった。需要は拡大しつつあるもののそれほど供給がなかった当時、青島や大連といった中規模マーケットをターゲットに、中型機で参入したのがANA Cargoだった。
「中国の中でも北京や上海、あとは韓国への路線数が多かった当時、拡大するマーケットだと見込んで入っていったのが弊社フレイターの成長の礎だった」と渡邉は語る。
中型機と呼ばれるのは、50トン程度の比較的小規模な輸送を可能とするボーイング767型フレイターの航空機だ。ANA Cargoが保有するフレイターは就航当時から現在まで、すべてこの中型機である。大量に同じものを運び、倉庫に在庫を抱え、それらを店頭に並べて売るのが主流だった2000年代以前は、100トン程度の貨物を輸送できるボーイング747型フレイターという大型機が活躍してきた。
当時はまだ中型であるボーイング767型フレイターはマイナーな機種であり、業界で話題を呼んだ。
「実は、スマートフォンは100%航空輸送なんです。最近のスマートフォンはどんどんモデルチェンジがくり返されますから、販売機会を逃すのが命取り。スピードが売りの航空輸送を選んでいただけるわけです。航空輸送に適するのは一般的に"軽薄短小で価値が高いもの"とされています」
100トンもの貨物を集めずとも飛ばせる、つまりは小回りがきくという利点が大きい。ANA Cargoでは、そういった多頻度・少量輸送が主流になっていくことを見越して、ボーイング767型での航空輸送を行ってきた。
経済発展とともに変化してきたフレイターの戦略
株式会社ANA Cargoグローバルマーケティング部 ネットワーク企画課の小柳善裕は、フレイターの運航スケジュールや便数、各空港の状況などを見ながら、ネットワークを決めていく業務を行う。
スマートフォンなど多くの電子機器類の生産が2000年代に始まった。その生産の多くは中国で行われるが、それらの製品は中国沿岸都市を中心に集積され、そこから輸出が行われる。
中国からの輸入はもちろん、ここ数年で日本からの輸出も増えている。たとえば半導体関連、電子部品類といったものだ。何百、何千というパーツが日本で生産され、中国などの工場へ運ばれ、製品として組み立てられ、世界へ届けられる。また、半導体や有機ELなど、非常に厳密な取り扱いを求められる電子機器類が増え、そういったものは航空輸送の比率が高い。
「揺れが少ない、湿気から遠ざけられる、といった環境がある航空輸送のメリットはもちろんですが、たとえば雨に強く濡損を防ぐビニールを巻くなど、そういった現場の動きも含め輸送に関してはマニュアルが用意されています。そういった工夫は現場から声があがり、それらを吸い上げてマニュアルに反映していくのですが、繊細なものの輸送の需要拡大とともにかなり体制が整えられてきました」
旅客機であれば機内サービスや機内食など様々な面で差別化をすることができるが、フレイターは他社との差別化が難しい。そこでANA Cargoでは貨物の取り扱いの面での差別化をするべく、品質向上に向けた様々な取り組みを進めてきた。毎年行われている顧客を対象とした調査においても徐々にその結果があらわれ、対応の早さや品質の高さを求めてANA Cargoが選ばれるケースが増えてきている。
ANA Cargoが描くフレイターの未来
ボーイング767型フレイターとともに成長してきたANA Cargoだが、マーケットの変化に合わせて、ネットワークも変化していかなければならない。それだけでなく、新たなマーケットも開拓していく必要がある。多くの課題があるということは、さらなる大きな成長の可能性があるということだ。
「今後は産業ロボットやリチウム電池など、フレイターでしか運べないようなものがどんどん増えてくると思いますし、そのマーケット規模はまだ小さいが、IoTやAIなどの浸透から大きな成長が期待されています。今後は取り扱いがより繊細なものも増えていくことから、より信頼いただけるよう品質向上に努めていきたいですね」
従来はすでにある需要に合わせた路線の就航や拡大から、成長を遂げてきたフレイター事業。近年は産業別のマーケティングリサーチを強化し、一歩先を見据えた動きも進められている。
今後は中国や現在就航しているアジア各国以外、特にハイテク産業の発展が続くアメリカも視野に入れ、世界の多くのお客様から選ばれ、航空物流業界を代表するエアライングループへ成長していく。
渡邉 圭二(ワタナベケイジ)
株式会社ANA Cargo
取締役 オペレーション部門担当
1987年、全日本空輸(株)に入社。当時の大阪空港支店貨物郵便部に配属となる。以来ほとんどの期間を貨物事業に携わり、2012年、上海・中国統括室長に。2016年に(株)ANA Cargo取締役となる。剣道4段という腕前を持ち、最近は母校剣道部の応援に夢中。
小柳 善裕(コヤナギヨシヒロ)
株式会社ANA Cargo
グローバルマーケティング部 ネットワーク企画課
2008年、全日本空輸(株)に入社。貨物のハンドリングなど現場業務を3年間務めた後、株式会社OCSへ出向し営業企画に携わる。現在はネットワーク企画課に配属から4年目となり、運航スケジュールやネットワークの立案を行っている。好きな食べ物はうどん。
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